タイ東北部ウドンタニー県で、19歳の大学生が電話詐欺団に110万バーツ(約504万円)をだまし取られた事件が5月20日に明らかになった。詐欺団は反マネーロンダリング事務所(AMLO、ปปง.)と特別捜査局(DSI)の職員を装い、ビデオ通話で警察制服姿を見せて被害者を信用させた。被害者が口座に残していた2.99バーツの少額まで「不正資金の検査のため」として送金を要求する徹底ぶりで、最終的に容疑者扱いされる構図に追い込まれた。
被害者は19歳の大学生
被害を受けたのはウドンタニー県ペン郡(อ.เพ็ญ)在住の大学生ナット(19歳、化名)。両親と一緒にバンドゥン市長ウィーラポン・ラックサモーウォン氏のもとを訪れ、5月20日に被害を告発した。
被害が始まったのは2025年12月。AMLOの職員を名乗る人物から電話がかかってきて、「マネーロンダリング事件の主犯ナーイ・エムと関係している」と告発された。詐欺団は写真を送って「この人物を知っているか」と質問し、ナットが「知らない」と答えても押し続けた。
ビデオ通話に切り替えると、相手は警察制服姿で映っていた。「ナットの個人情報を使ってノーンブアラムプー県で不正な銀行口座が開設された」と説明し、DSIの担当者に電話を転送する演出を加えた。DSI役の人物も警察職員の口調で本物そっくりの質問を続け、ナットは徐々に信じ込まされていった。
2.99バーツでも送金指示する徹底ぶり
詐欺団はナットにTrueMoneyウォレットの番号を提出させ、即座に口座を凍結してみせた。「これは正規の捜査だ」とナットに信じ込ませる演出で、偽の捜査書類も提示された。
その後、本格的な送金指示が始まった。詐欺団は「あなたの資金が不正な金かどうか調べるため、一時的に検査用口座に移してほしい」と説明し、ナットに送金を要求。
最初に送らせたのは1,500バーツ。母親から週ごとに仕送りされていた生活費だった。詐欺団はそれだけでは満足せず、ナットが別口座に残していた2.99バーツ(約14円)の残高にまで送金を要求。その後も3つの異なる口座への送金を次々と指示し、最終的な被害総額は110万バーツに及んだ。
詐欺団の手口は被害者を完全に思考停止に追い込む構造で、最後はナット自身が「マネーロンダリング事件の容疑者」として扱われる形で電話が終わった。ナットと家族は事態に気づいた時には全財産を失っていた。
タイの電話詐欺被害は年間40万件超
タイのオンライン詐欺・電話詐欺被害は深刻な水準に達している。タイ警察の集計では、2024年第1四半期だけで40万件を超えるオンライン詐欺事件が報告され、被害額は約600億バーツ(約2,760億円)に達した。GASA(世界詐欺対策アライアンス)の2025年報告書では、タイ人成人の72%が詐欺の標的となり、60%が過去12か月以内に実害を受け、平均損失は1人あたり約408ドル(約6万円)とされる。
被害規模に対して、捜査と回収はまったく追いついていないのが現状。タイ警察庁は2025年にもAMLO・DSIと連携して、ウドンタニー県内で詐欺ネットワークの拠点6か所を一斉摘発し、被害者166人・約9,000万バーツの被害が確認された事案を発表している。
「公的機関を名乗る電話」の典型手口
詐欺団がAMLO・DSI・警察を装う手口は、タイのコールセンター詐欺の王道パターンとされる。手口の典型は次の流れで進む。
最初の電話は運送会社・通信会社・銀行を装って始まることが多い。「あなた宛ての荷物に違法物が入っている」「不正な銀行口座があなたの名義で開設されている」などと脅し、信用させたところでAMLO・DSI・警察に電話を「転送」する演出を加える。
「転送」先の偽の捜査官は、本物の捜査書類風の画像を提示し、ビデオ通話で制服姿を見せて被害者を心理的に追い込む。最終的に「あなたの資金が不正なものかを検査するため、一時的に検査用口座に送金してください」と要求し、何度も送金を繰り返させる。
被害者が大学生・高齢者に集中するのは、こうした権威的な「公的機関を名乗る」演出に対する免疫が薄いため。家族グループのLINE・WhatsAppで詐欺団からの電話の手口を共有し、「公的機関は電話で送金を要求しない」というルールを徹底することが、防御の第一歩とされる。
AMLO・DSI・警察の合同防御策
タイの法執行機関は、AMLO・DSI・タイ警察庁の3機関合同で「コールセンター詐欺ネットワーク撲滅プロジェクト」を進めている。AMLO公式は「AMLO・DSI・警察の職員が個人に電話して送金を要求することは絶対にない」と繰り返し啓発しており、不審な電話を受けたら警察ホットライン1599、AMLOホットライン1710に通報するよう呼びかけている。
在タイ日本人駐在員も、タイ語を完全に理解できない場合に詐欺団から「英語で電話がかかってきた」というケースが報告されている。電話を切る、家族・同僚に確認する、銀行に直接出向く、というシンプルなルールを守ることで被害は防げる。



