タイ国鉄(SRT)と麻薬統制委員会事務局(ONCB)が、2026年5月19日と20日の2日間にわたってクルンテープ・アピワット中央駅で実施した職員薬物検査で、検査対象298人のうち2人が陽性反応を示した。陽性となったのはバンスー機関区の列車運転士1人と踏切作業員1人で、両職員は即座に安全関連業務から離脱させられた。タイ運輸省は事件を受けて、3か月以内に全公共交通機関職員への毎日始業前薬物検査の義務化を表明している。2026年4月のマッカサン列車事故(運転士がヤーバ+大麻の陽性反応)の教訓を踏まえた集中的な安全対策強化の一環で、タイ全土の公共交通機関の薬物使用監視体制が大幅に変わる可能性が高い。
2日間の検査と陽性者
検査の詳細は次の通り。
- 5月19日: 157人(運用部門50人+機械部門107人)を検査、全員陰性
- 5月20日: 141人を検査、2人陽性
- 合計検査人数: 298人
- 陽性率: 約0.67%(2/298)
陽性者の身元・年齢は公表されていないが、職務は次の通り。
- 1人: バンスー機関区(สถานีรถจักรบางซื่อ)所属の列車運転士
- 1人: クルンテープ・アピワット中央駅周辺の踏切作業員
SRTの規定により、両職員は陽性反応確定後即座に安全関連業務から離脱させられ、医学確認検査・社内調査・懲戒手続きが並行で進められる方針。
検査の場所と対象範囲
検査はバンコクの新中央駅クルンテープ・アピワット中央駅(Krung Thep Aphiwat Central Terminal、旧バンスー中央駅)で実施された。この駅は2023年に開業したタイ最大の鉄道ターミナルで、全国の長距離列車・近郊列車の発着拠点として機能している。
検査対象は次の部門の職員。
- 運用部門(Operations)
- 機械部門(Mechanical)
- 列車運転士
- 駅運営スタッフ
- 踏切作業員
- 保守整備員
SRT医療班とONCBの合同チームが尿サンプル検査を実施し、陽性判定後は確認のための再検査と医学的評価が続けられる。
マッカサン事故との関連
今回の薬物検査の集中実施は、2026年4月に発生したバンコク・マッカサン地区での列車vsバス衝突事故の教訓を踏まえたものとされる。
マッカサン事故の経緯と関連報道は次の通り。
- 2026年4月: マッカサン地区で列車とバスが衝突、複数の死傷者
- 事故後検査で運転士がヤーバ(覚醒剤錠剤)と大麻の二重陽性反応
- 過去にも2019年に薬物使用での処分歴があった
- ブラックボックスの記録で運転士が衝突100m手前で初めてブレーキ
- 事故後10日前にも薬物使用と自白
この事故をきっかけにタイ運輸省・SRT・ONCBは、公共交通機関職員の薬物使用問題を構造的な課題として認識し、抜本的な対策強化に着手した。
3か月内の毎日検査義務化
タイ運輸省は今回の検査結果を受けて、次の対策を3か月以内に施行する方針を表明している。
- 全公共交通機関職員(SRT・BMTA・MRT・BTSなど)に毎日始業前薬物検査義務化
- 都心向け列車の一部運行見直し
- 検査機器と検査体制の大幅拡充
- 陽性者への厳格な懲戒処分(即時停職→解雇)
- ONCBとの常設連携体制構築
毎日検査義務化は、世界の主要鉄道事業者で見ても極めて厳格な対応で、タイの公共交通機関の安全水準を国際標準以上に引き上げる狙いがある。
ONCBの役割
麻薬統制委員会事務局(Office of the Narcotics Control Board、ONCB)は、タイ政府の麻薬対策の中核機関。2024年から「ヤーバ+大麻+メタンフェタミン」の同時使用パターンの増加を警戒しており、公共交通機関職員への抜き打ち検査を拡大している。
ONCBの2025年集計では、公共交通機関職員の薬物使用率は全国平均で約1.2%。一般人口の薬物使用率(約2.3%)より低い水準ではあるが、安全責任の重さを考慮すると見過ごせないリスクとされる。
タイの薬物使用問題は、特に北部・東北部のヤーバ流入の影響で深刻化しており、公共交通機関職員も例外ではない状況。
SRTの過去の薬物事案
- 2019年: 運転士複数の薬物使用処分(マッカサン事故の運転士もこの時の処分歴あり)
- 2021年: 北部支線の機関士の薬物使用検査陽性
- 2023年: 駅作業員のヤーバ密売関与で逮捕
- 2026年4月: マッカサン事故の運転士薬物陽性
- 2026年5月: 今回の298人検査で2人陽性
過去の処分歴を持つ職員が再び薬物使用に至るケースが目立ち、SRT内部の人事管理と再発防止プログラムの実効性が問われている。
クルンテープ・アピワット中央駅止まり化と長距離列車サービス見直し
タイ運輸省は安全対策強化の一環として、バンコク都心向け列車の一部運行見直しも検討している。具体的には、長距離列車のクルンテープ・アピワット中央駅止まり化、近郊列車のSRT Red Line活用などが議論されている。
通勤・通学・観光利用者にとって、当面はサービス縮小の可能性があるが、安全強化と引き換えの必要なステップとして受け止められている。
チェンマイ・チェンライ方面長距離列車の運行見直し
タイで列車を利用する観光客・在留外国人にとって、今回の薬物検査強化は次の意味を持つ。
- 安全水準の向上(長期的な観点)
- 一部運行ダイヤの変更可能性(短期的)
- SRT Red Line・BTS・MRTの利用比率の高まり
- 長距離列車のサービス見直し(クルンテープ・アピワット止まり化など)
タイ国鉄の長距離列車はチェンマイ・チェンライ・ナコーンラーチャシーマ・ハジャイなどの観光地アクセスに重要なインフラで、安全水準と利便性のバランスが今後の焦点となる。
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