タイの第1管区警察と麻薬取締部の合同捜査チームが5月20日、首都圏バンコク北郊パトゥムターニー県ラムルーカ郡(อ.ลำลูกกา จ.ปทุมธานี)とタンヤブリ郡の賃貸住宅2か所で覚醒剤錠剤(ヤーバー)890万錠を押収、男女4人を逮捕した。サラブリ県(タイ中部・ゴールデントライアングル下流の中継地)から白いピックアップトラックの覆い荷台で運び込まれた状態で押収されたもので、ミャンマー国境地帯からの大規模供給ネットワークがパトゥムターニーを首都圏配布の「セーフハウス」として利用していた構造が明らかになった。
押収量と逮捕者
押収された覚醒剤錠剤は合計890万錠。初動捜査で押収された800万錠に加え、関係先の追加捜索で約90万錠が確保された。
逮捕されたのは次の4人。
- ウィーロート氏(化名、42歳男性)
- ワチャラポン氏(化名、31歳男性)
- プリチャット氏(化名、21歳女性)
- パナッダ氏(化名、26歳女性)
タイ警察庁麻薬取締部の発表によると、4人はサラブリ県の供給拠点から覚醒剤錠剤を受け取り、パトゥムターニー県ラムルーカ郡とタンヤブリ郡の賃貸住宅2か所に分散保管し、首都圏内への小分け配送を待っていた状態だった。
運搬手段と供給ルート
運搬に使われたのは白色のピックアップトラック。ナンバープレートは「チョンブリ 3388」で、覆い荷台(ตู้ทึบ、ステンレス・布製の密閉型カバー)を装着していた。タイ国内の麻薬密輸では、ピックアップの覆い荷台が定番の運搬手段になっている。長距離移動でも積載量が大きく、外部から積荷を視認できないため、警察検問でもリスクが低いと判断されているためとされる。
ゴールデン・トライアングル地帯(ミャンマー・ラオス・タイ国境)で製造された覚醒剤錠剤は、メーサイ国境地区またはチェンライ-ファーン回廊からタイ北部へ流入、その後ナコーンサワン-ロップブリ-サラブリの中央回廊を経由して首都圏に持ち込まれる構造が定着している。サラブリ県はバンコクから車で約2時間の距離にあり、麻薬中継拠点として近年複数回、大規模押収事案が発生している。
パトゥムターニーが「セーフハウス」拠点に
パトゥムターニー県は首都圏北部の住宅地ベルトで、コンドミニアム・賃貸戸建てが大量に分布する地域。バンコク市中心部から車で30分から1時間、ドンムアン空港から15分とアクセスがよく、麻薬組織が「セーフハウス」(一時保管・小分け拠点)として活用する事案が繰り返し報告されている。
タイ警察庁の集計では、2024年から2025年にかけて、パトゥムターニー県内で行われた大規模覚醒剤押収事案は10件超。今回の890万錠押収は、過去2年間で最大級の規模に位置する。
末端価格の試算
タイ国内のヤーバー(覚醒剤錠剤)の取引価格は、卸価格で1錠20-30バーツ、末端小売価格で1錠80-100バーツが相場。今回押収された890万錠を末端小売価格で換算すると、約7億〜8億9,000万バーツ(約32億〜41億円)の市場規模になる。
タイ警察庁は押収した錠剤を焼却処分予定で、上位組織の捜査拡大に向けて4人の逮捕者からの追加情報収集を進めている。サラブリ-ミャンマー国境ラインの供給ネットワークの中継幹部の特定が次の焦点となる。
ゴールデン・トライアングルの供給構造
タイ・ミャンマー・ラオス国境のゴールデン・トライアングルは、世界最大級の合成麻薬製造拠点として国連薬物・犯罪事務所(UNODC)が継続的に警告している地域。ミャンマー国軍と少数民族武装勢力(ワ族・シャン族など)が支配する地区で、覚醒剤錠剤・ヘロイン・メタンフェタミン結晶が大量生産されている。
UNODCの2025年報告書では、ゴールデン・トライアングルからのヤーバー生産量は年間100億錠規模に達し、その大半がタイ・ベトナム・マレーシア・バングラデシュ経由でアジア各地に流れている。タイは生産国ではなく中継国として、押収・摘発の最前線に立つ立場が続いている。
賃貸物件オーナーへの警戒呼びかけ
今回の押収現場ラムルーカ郡・タンヤブリ郡は、首都圏北郊の住宅地ベルトで、コンドミニアム・賃貸戸建てが密集する地域。タイ警察庁は、賃貸物件のオーナーに対して「家賃が相場より高い」「現金一括払いの長期契約」「日中に人気がなく夜間のみ車両出入り」「カーテンを締め切ったままで隣人付き合いがない」といった「セーフハウス」判別パターンを警戒するよう呼びかけている。
賃貸物件選びでは、評判のよい大手管理会社経由の物件を選ぶことで、こうしたリスクから距離を取りやすくなる。コンドミニアム管理組合・自治会の活動が活発な物件は、不審な利用者の発生をオーナー・警察に通報できる仕組みが機能している。
上位組織への捜査拡大
タイ警察庁は、890万錠の供給元・受取先・流通網について、4人の逮捕者からの追加情報を基に捜査拡大を進める方針を表明している。サラブリ-パトゥムターニー間の運搬ルートに関与した「中継幹部」「金融担当者」「分配拠点運営者」の特定が、今後の捜査の焦点。
過去のタイ国内大規模麻薬事件では、運搬実行犯の逮捕から数か月〜半年で上位組織の幹部逮捕に至るケースが続いており、今回も同様の展開が期待されている。



