タイ西部カンチャナブリ県ムアン郡ワンドゥン町バーンノーンサームプラーン地区の国道323号で5月20日深夜、トヨタの乗用車が道路を横切る大型の野生象に激突し、車両が炎上焼失する事故が発生した。後部座席にいた70歳男性が現場で死亡、男性2人が負傷した。象は衝突後そのまま森に戻ったが、当局はドローンで象の負傷状況を追跡している。野生象生息地と国道が交差する区間での夜間衝突事故として、カンチャナブリ-スパンブリ-ウタイタニーを縦断する観光ルート利用者にも警戒が広がっている。
大型野生象が突然横断、ブレーキ間に合わず
事故が発生したのは5月20日深夜、カンチャナブリ県ムアン郡ワンドゥン町バーンノーンサームプラーン地区(บ้านหนองสามพราน ต.วังด้ง อ.เมือง จ.กาญจนบุรี)を通る国道323号上。同区間はサイヨーク国立公園など野生象保護区と隣接し、夜間に象が道路を横断するホットスポットの1つとして知られている。
負傷者の証言によると、深夜の道路で大型の野生象が突然飛び出してきて道路を横断。トヨタのブロンズ色乗用車はブレーキが間に合わず激突し、衝撃で炎上、車両は全焼した。
車内には3人が乗っていた。約70歳の男性乗客は意識を失っており、救急隊員がCPR(心肺蘇生)を試みたが現場で死亡を確認。残る2人は負傷した状態で救出された。象は衝突を受けながらも自力で道路脇の森に戻り、現地の国立公園当局は象の負傷状況を確認するためドローンによる追跡を進めている。
国道323号は野生象出没のホットスポット
国道323号(タナラットゥラチット通り)はカンチャナブリ-トーンパープーム-シーソワットを結ぶ幹線道路で、サイヨーク国立公園・トーンパープーム国立公園・シーナカリンダム湖周辺の自然保護区を縦断する。
象の道路横断は同区間の長年の課題で、タイ国立公園・野生動物・植物保全局(DNP)は野生動物横断警告看板を主要地点に設置している。サイヨーク地域では特に乾期から雨季への移行期に象が水と食料を求めて移動するため、5月から6月にかけての衝突事故が目立つ。
タイの野生象個体数は約4,000頭と推定され、生息地の縮小と農地・道路の拡大によって人間との衝突が増加傾向にある。タイ国内で2024年から2026年にかけて、車両と野生象の衝突事故は毎年複数件報告されており、車両の全焼に至るケースも少なくない。
「象優先」のルール
カンチャナブリ-スパンブリ-ウタイタニー間の山間部国道では、地元交通当局が夜間走行のドライバーに次の対応を呼びかけている。
- 国立公園隣接区間では夜間走行を可能な限り避ける
- 警告看板の出ている区間では時速60キロ以下に減速
- 象が横断中の場合は車両のライトを消し、距離を保って待機する
- クラクションを鳴らさず、追い越しをしない
象は通常おとなしいが、ライト・クラクションで興奮すると車両を攻撃するケースが報告されている。1万頭規模の生息地隣接区域では、車両側が「象優先」の姿勢で待機するのが地元の運転常識となっている。
カンチャナブリは日本人観光客の人気エリア
カンチャナブリ県はバンコクから西へ約130キロ、第二次世界大戦の戦争記念碑「クワイ川鉄橋」、シーナカリン湖、エラワン滝などで知られる日本人観光客の人気エリア。バンコクから日帰りまたは1泊2日のツアーで訪れる観光客が多い。
国道323号はバンコク発のミニバン・タクシー・レンタカーがエラワン滝・シーナカリン湖方面に向かう主要ルートで、夜間に同区間を走行する日本人観光客も少なくない。今回の事故区間バーンノーンサームプラーンはカンチャナブリ市街地から北西へ約15キロ、エラワン滝方面の入口に位置する。
タイ観光局はカンチャナブリ-トーンパープーム間の国立公園隣接区間について、レンタカー利用者に夜間走行を避けるよう呼びかけているが、ガイドブック・OTAの推奨ルートには夜間走行を含む行程も残っており、観光客側の準備不足が事故リスクを高めている。
野生象対策の課題
カンチャナブリだけでなく、タイ国内ではブリラム・チャンタブリ・チョンブリ・プラチンブリなどの山間部国道で野生象による事故・人身被害が続いている。最近の事例では、ブリラム村で野生象がパトロール隊長66歳を殺害、チャンタブリのドリアン園でミャンマー人女性労働者が踏み殺される、ラヨンの発情期野生象が農場労働者を殺害するなど、人間と象の生息域境界が崩壊しつつある現実が浮き彫りになっている。
DNPは2026年予算で野生動物-道路横断警報システム(センサー+LED看板)の試験運用を始めている。スリーパゴダパス周辺など特定区間に導入されているが、国道全体カバーには時間がかかる見込み。当面はドライバー側の警戒と「象優先」ルールの徹底が事故防止の主軸となる。





