タイ・カンチャナブリ県メアン郡ワン・ダン町(ต.วังด้ง อ.เมือง จ.กาญจนบุรี)で5月19日午後9時頃、トヨタ・カローラ乗用車が国道323号(สาย 323、カンチャナブリ市内方面)を走行中、横断していた野生象(ช้างป่า)と衝突した。衝突の衝撃でエンジンルームから出火、車両は全焼。助手席に乗っていた70歳の男性(チューキャット氏、苗字非公開)が車内から脱出できず死亡、運転者と後部座席の同乗者2名が負傷した。
ラートヤー警察(สภ.ลาดหญ้า)のナタポン・トンシークワ副捜査官は「この道路区間で乗用車が野生象に衝突する事故は過去に例がない」と話している。タイ西部の自然保護区に隣接した幹線道路の夜間運転リスクが、衝撃的な形で表面化した事案だ。
事故の状況
5月19日21時頃、国道323号「9キロ地点」(ฒ.9)で発生。同道路はカンチャナブリ市と西部山岳地帯(三仏寺・サンクラブリ・ミャンマー国境方面)を結ぶ幹線で、サラックプラ野生動物保護区(เขตรักษาพันธุ์สัตว์ป่าสลักพระ)が道路の両側に広がる。
警察の現場検証によると、被害車両のトヨタ・カローラ(カンチャナブリ・ナンバー)は、衝突地点で道路右側に大きく逸れて停止。車両前部はバンパー・ボンネット・フロントガラスが大きく潰れた状態で、エンジンルームから発火した炎が車内全体に燃え広がり、レスキューが消火した時点では車体ほぼ全部が焼失していた。
死亡したのは助手席のチューキャット氏(70歳)。火災と衝突の二重ダメージで車内から脱出できなかったと見られる。運転者と後部座席の2人は、衝突直後に脱出し、燃え上がる車両から離れたため軽傷で済んだ。
警察が現場対応に駆け付けたのは、(死亡確認担当として)パホンポンユハセナ病院当直医、警察鑑識、(野生動物関連で)サラックプラ野生動物保護区職員、(救急救援で)カンチャナブリ・ピタック財団のレスキューチーム。
野生象による衝突事故が珍しい理由
タイ西部・北部・東北部の山岳地帯では、野生象の生息域と幹線道路が交差する箇所が複数ある。チェンマイ・ターク・サケオ・チャンタブリ・カンチャナブリ等で、まれに野生象が道路を横断する。
ただし、車両との直接衝突で「車両全焼+死亡」という重大事故はこれまでに少なく、ラートヤー警察も「国道323号でこのタイプの事故は過去にない」とコメントしている。
野生象が道路を横断するケースは雨期(5〜10月)に多い。山岳地帯の水場・果樹園・農地を求めて、生息域を超えて移動するためで、特に夕方〜夜間に集中する。今回の事故も5月19日21時という時間帯で、典型的な雨期入り後の象移動パターンに合致している。
サラックプラ野生動物保護区
事故が起きた国道323号沿いに広がるサラックプラ野生動物保護区は、面積858平方キロメートル、タイ第3〜4位規模の野生動物保護区。
野生象の生息数は約60〜80頭で、近年の保護政策で安定的に増加している。バンテン、ガウル(野牛)、サンバー鹿、ハッキョウ、各種霊長類なども生息。タイ国内で「野生動物観察エコツーリズム」の主要拠点の一つとして、国内外の自然愛好家が訪れる。
ただし、保護区を貫く国道323号は、観光客・物流・地元住民の生活路でもあり、野生動物の生息域と人の生活圏が常に接している構造。象との偶発的接触事故のリスクは、構造的にゼロにできない地域だ。
関連背景
タイで自分で運転する日本人駐在員・観光客にとって、野生象との衝突は「想定外」のリスクだが、ありえないことではない。
野生象の生息域に近い幹線道路(国道323号、国道11号、国道12号、国道12-21号、国道316号、国道330号、国道3199号など)を夜間走行する際の現実的な備えとして、夜間運転は可能な限り避ける、ヘッドライトのハイビーム積極使用、速度は法定よりさらに10〜20%落とす、対向車のクラクションや警笛に注意する、運転中に道路脇の大きな影や動きに警戒する、これらが有効。
万一象との衝突に遭遇した場合は、(衝突回避が間に合うなら)急ブレーキより緩やかな減速で、(衝突後)直ちに車外に出て安全な場所に避難、ガソリン臭などがあれば即座に離れる、警察(199)・国道警察(1193)・救急(1669)へ通報、これらが命を守る基本動作。
過去のタイにおける野生象衝突事故
参考までに、過去に報じられた主な野生象衝突事故事例。
- 2024年11月: チョンブリ県シーラチャ郡の山道で深夜のバン衝突、3人軽傷、象は救援後保護区へ
- 2025年3月: カオヤイ国立公園内道路で乗用車衝突、運転者軽傷、象は怪我なし
- 2025年6月: チャンタブリ県の幹線道路で大型トラック衝突、運転者重傷、象死亡
「象死亡」を含む事故は野生動物保護法・刑法上の問題にも発展しうる。今回のカンチャナブリ事故で象の生死は現時点で確認できていないが、警察・野生動物局による追跡調査が進められる見込み。
まとめ