タイのファイナンシャル・コーチ「コーチヌム(โค้ชหนุ่ม)」こと、チャクラポン・メーサーパン氏が、自身のSNSで「Gen Z(おおむね15-26歳)4人すれ違ったら、そのうち1人は不良債務を抱えている」と警鐘を鳴らした。「就職してすぐ借金生活」「氷山の下の本当の危機」と表現し、タイの若年層金融崩壊が見えない場所で進行している現状を訴えた。
タイ家計債務はGDP比91.3%(2025年Q3)とアジア新興国でトップクラス。中央銀行(BoT)がBNPL(Buy Now Pay Later、後払い決済)規制を年内に明確化する方針を打ち出している中、コーチヌムの発言は「若年層の構造的崩壊」の証言として広く拡散された。
コーチヌムが指摘する3つの問題
コーチヌムのSNS投稿は、タイの若年層が抱える金融問題を3つの軸で整理している。
ひとつは「入社即借金」の構造。大学・専門学校を卒業して初職に就いたGen Zの多くが、初任給を受け取る前にBNPL・クレジットカード・サブスクで借金体質に陥る。月給15,000〜25,000バーツの新人で、累積債務が5万〜20万バーツを抱えるケースも珍しくない。
もうひとつはSNS・EC・BNPLの三重攻撃。Shopee・Lazada・TikTok ShopのBNPL機能で「ボタン1つで分割払い」が定着し、若年層は「買う前に考える」習慣を失った。インフルエンサーマーケティングと相まって、消費が借金に直結する構造になっている。
3つ目は「不良債務率の隠蔽」。Gen Z 25%(コーチヌム推計)の不良債務は、銀行・クレジットカード会社の公式統計には十分に反映されていない。BNPL残高が国家信用情報局(NCB)に報告されない仕組み上、若年層の実態は政府・金融機関ともに正確に把握できていない。
タイ家計債務の現状
タイ中央銀行(BoT)・国家経済社会開発委員会(NESDC)・タイ商業銀行協会の統計から、家計債務の構造を読み解く。
家計債務総額は16.5兆バーツ(2026年Q1、約74兆円)、GDP比約90%。アジア新興国の中でも飛び抜けて高い水準で、世界銀行統計では先進国の中央値(70%前後)を超えている。
債務種別の内訳は、住宅ローン33%、自動車ローン12%、クレジットカード+個人ローン25%、農業ローン9%、その他21%。「その他」の中にBNPL残高・SHARK LOAN(裏金融)・P2P貸借が含まれるが、正確な数字は把握されていない。BoTの推計では、BNPLが年率30〜40%で増加中。
特にGen Zが集中する20代後半の家計債務月額返済負担率は、手取りの30%を超えるケースが過半。物価上昇・燃料価格・観光業の停滞による収入の不安定さが重なり、新規借金で旧債務を返す「ローン・スパイラル」に陥る若者が増えている。
タイ政府の対応
タイ政府は2026年に入って、家計債務問題への複数の対策を打ち出している。
「Clear Debt, Move Forward(借金免除で前進)」プログラム。2026年1月から開始、最大1.2兆バーツ予算で、不良債務化した10万バーツ以下の債務(340万人対象)の利息免除を実施。元本返済義務は残るが、完了で信用情報の負の記録を除去する仕組み。
BNPL規制ガイドライン。BoTが年内に明確化する予定で、BNPL事業者を監督下に、与信審査・残高報告・延滞料上限を義務化する。
タイ救援タイプラス。2026年6月開始、4,300万人対象、月1,000バーツの政府補助で生活費負担を軽減。直接的な債務削減ではないが、低所得層の支出余力を支援する。
これらの政策が組み合わさって、家計債務危機の構造的解決を目指す方向だが、Gen Zの「入社即借金」体質を変えるには、金融教育・消費文化の変革も必要、というのがコーチヌムの主張だ。
コーチヌムとは誰か
コーチヌム(チャクラポン・メーサーパン)は、タイで最も影響力のあるパーソナルファイナンス系コーチの一人。自身のYouTubeチャンネル・Facebook・TikTokで、20代〜40代に向けた家計管理・投資・債務脱却の発信を続けている。
著書「Money Coach」シリーズはタイ国内のベストセラーで、企業研修・大学講演でも引っ張りだこ。今回の「Gen Z 25%不良債務」発言は、彼が日々相談を受けている若年層の実態から導いた肌感覚的な数字で、公式統計を超える説得力を持つ。
関連背景
タイで暮らす日本人駐在員家庭にとって、Gen Zの金融崩壊問題は次の場面で関わってくる。
タイ人スタッフ・ドライバー・家政婦の家庭事情として。20代後半の若手スタッフが、突然「給与の前借り」を申し出てくる場面がある。背後にBNPL・カードローン・ヤミ金融の借金スパイラルがあるケースが多く、雇用主としての対応(分割給与・福利厚生・金融相談)を考えておく余地がある。
タイ人配偶者・子供のフィナンシャルリテラシーとして。日本人と結婚しているタイ人配偶者・成長中の子供が、Gen Z・Gen Alpha世代のSNS・EC文化に晒される。家庭での金融教育・消費ルールの設定が、将来的な家計の安定に直結する。