タイ南部プーケット県の島の入口、タラン郡マイカオ村にあるタチャートチャイ検問所で5月18日、乗合バスに乗り込んできた29歳のロシア人男性が逮捕された。名前はゴルスキー・マトヴェイ容疑者。所持していたのは、ガラス瓶のような透明な結晶のアイス(覚醒剤、メタンフェタミン)564.74グラム、ヘロイン、エクスタシー(MDMA)、ケタミン(K)の合わせて4種類の薬物だ。
きっかけは検問所のごく日常的な乗客チェックだった。バスに乗り込んだ男が、足元に置いた肩掛けのバッグを、座席の下に押し込もうとして足でちょいちょい蹴っているのが見えた。それだけなのだが、現場の警察官にはピンと来たらしい。職務質問でバッグを開けさせたところ、そこに想定外の量のアイスが出てきた、という流れだ。
しかも容疑者はビザのオーバーステイ。さらにパスポートを調べると、タイ国境を何度も出入りした記録が並んでいた。一時的にタイにふらっと来た観光客の不運な逮捕、というよりは、繰り返しタイを通り抜けている人物がたまたまプーケットの入口で捕まった、という見立てが自然だ。
タチャートチャイ検問所はプーケット島とパンガー県を繋ぐサラシン橋のたもとにあり、島に入る車両はほぼ全てここを通る。空港やパトンビーチに向かう観光客の流れと、薬物の運び屋の流れがどうしてもここで重なる。だから検問所はかなり目を光らせている。今回はその網が、ごく些細な「足のしぐさ」に気付いて引っかけた格好だ。
押収量は地味な数字に見えるかもしれないが、タイの薬物関連法は覚醒剤の所持量に対して非常に厳しい。564グラムというのは、過去の判例から見ても重い量刑が確実な水準だ。バスで動いていたところから、容疑者単独の所持と判断するのは早計で、入手元と運び先のどこかに別の人間がいるはずだ。プーケット県警(本部長シンレート警視正、副本部長アゴーニット警視正らの指揮)は今後そこに踏み込んでいくことになる。
引っかかったのは、これがプーケットという「観光地」で起きていることの違和感だ。バチン号のような豪華なホテルやアンダマン海の写真を撮りに来る人がほとんどの島の入口で、バッグの中に4種類の薬物が同時に詰まっていた、というギャップ。観光のキレイな表面と、その隙間を縫って流れる別のルートが、検問所という小さな点で交差していたわけだ。
ウクライナ戦争以降、プーケット周辺にロシア人コミュニティが膨らんでいるのは事実で、まっとうに長期滞在している人も多い。ただ、その人波に紛れて運び屋的に動く層もいて、警察はそこの選別を強化している。今回の摘発はその文脈で読むと自然な1コマで、プーケットの治安維持の地味な裏側を覗かせる事件だった。

