タイ東北部ナコンラチャシマ県(コラート)の都市部で狂犬病の感染が拡大している。2026年2月に54歳男性が狂犬病で死亡したのに続き、5月17日には隣接する2町で野犬の感染が新たに確認されたと地元紙が報じた。死亡男性は2025年12月に野犬に両足を噛まれたが、適切なワクチン接種を受けないまま2026年2月15日に発症・死亡していた。タイでは毎年数人が狂犬病で死亡しており、地方では野犬・野猫との接触リスクが高い。バンコクなど都市部の駐在員にとっても、地方出張・国境観光・愛玩動物の管理で警戒すべき疾病だ。
54歳男性死亡の経緯
死亡した男性は、コラート市内ポータラン町・ノンパイパッタナ村の住宅街に住んでいた。同地域はスラタムピタック軍駐屯地に隣接する境界エリアだ。
2025年12月6日、男性は野犬に両足を噛まれた。狂犬病ワクチンの予防的接種(暴露後予防、PEP = Post-Exposure Prophylaxis)を受けないまま生活を続けていたところ、2026年2月11〜13日に発熱・倦怠感が出始め、2月15日に発症・死亡した。コラート県の2026年の狂犬病による死亡者第1号となった。
タイ疾病管理局(CDC)によれば、狂犬病は発症すると致死率ほぼ100%の急性ウイルス性脳炎で、現時点で有効な治療法はない。噛まれた直後の傷口洗浄とPEP接種が唯一の予防策となる。
5月17日の新展開—隣接2町に感染拡大
5月17日、コラート県畜産局が市内の死亡男性の生活圏に近接する別の2町(ตำบล)で野犬の狂犬病感染を新たに確認した。半径5キロ以内を「狂犬病監視区域」に指定し、(a)野犬・野猫の捕獲・隔離、(b)住民の屋外飼育ペットへの強制ワクチン接種、(c)噛まれた住民への即座の医療機関受診呼びかけ、を進めている。
地元住民は「子供を外で遊ばせるのが怖い」「散歩中に野犬に近づかれて避けられない」「ペットを散歩できない」と不安を訴えており、自治体には抗議の声が増えている。
タイの狂犬病現状
タイ全体では2024〜2025年に複数の県で狂犬病による死者が報告されている。
タイ疾病管理局のデータでは、(1)感染源の約95%は野犬(残りは野猫、まれに野生動物)、(2)感染ルートは噛み傷・引っかき傷・粘膜への唾液接触、(3)発症までの潜伏期間は1〜3か月(最短数日、最長1年超)、(4)発症すれば致死率ほぼ100%、という構造だ。
タイは2030年までの狂犬病ゼロ達成を目指して、(a)野犬・野猫の去勢手術と予防接種事業、(b)住民への啓発キャンペーン、(c)噛まれた人への無料PEP接種、を進めている。しかし依然として年間20人前後の感染確認と数人の死者が出ており、地方ではゼロ達成への道のりは長い。
関連背景
バンコク・パタヤ・チェンマイなどの都市部でも野犬・野良猫は多く、駐在員家庭でも次のような備えが現実的だ。
第1に、入国前または入国直後に「狂犬病予防接種(暴露前接種、PrEP)」を受けておく。日本国内のトラベルクリニックで3回接種が標準、1回約1万円。タイ国内(バンコクのスネークファーム病院、サミティベート病院、バムルンラート病院など)でも接種可能。
第2に、子供がいる家庭は特に「野犬・野猫に近づかない」を徹底。子供が動物好きでも、知らない動物に手を伸ばすことを禁止する。
第3に、ペット(飼い犬・飼い猫)の屋外接触を制限し、年1回のワクチン接種を必ず受ける。タイ国内獣医院(PoshLifeなどグループ動物病院)で接種可能、1回500〜1,500バーツ。
噛まれた時の正しい対応
万が一、野犬・野猫・野生動物に噛まれた場合の対応は次のとおり。
第1に、即座に傷口を石鹸と流水で15分以上しっかり洗い、消毒液(70%アルコールまたはイソジン)で消毒する。第2に、72時間以内に医療機関で狂犬病暴露後予防接種(PEP)を受ける。日本人駐在員の場合、バムルンラート病院、サミティベート病院、BNH病院などの国際病院が日本語対応で安心。第3に、噛んだ動物が特定できる場合、10日間の経過観察で動物が死亡しなければ感染リスクは低いが、判定不能なら即座にPEPを開始すべき。第4に、加入している海外旅行保険・駐在員保険でPEP費用がカバーされるか事前確認。
タイの狂犬病PEP費用は1セット2,000〜5,000バーツ程度。発症してからでは手遅れなので、「噛まれたら即受診」を絶対のルールとしたい。