タイ閣議が5月12日(火)に2026 FIFAワールドカップの放送権獲得を緊急議題として取り上げる方針が、5月11日の政府筋からの情報で明らかになった。大会開幕日は2026年6月11日で、残り約1か月の時点でタイ国内の放送局も予算も確定していない異常事態。アヌティン・チャーンウィラクン首相は「歴代政権は皆W杯をタイ国民に観せてきた、私の政権だけが例外になる理由はない」と無料視聴の維持を強く主張しているが、放送権料の試算は16〜20億バーツ(約78〜97億円)で、財源確保が最大の課題となっている。
タイのW杯放送問題は構造的だ。タイの国家放送通信委員会(NBTC)は2025年6月、W杯を「必須視聴コンテンツリスト」から外す決定を下した。この決定により、地上波での無料放送が法的に義務付けられなくなり、商業放送局が高額の放送権料を独自に負担するか、政府が公的資金で補助するかの二択となった。結果として民間放送局は手を出しにくくなり、放送権の交渉自体が停滞した。
FIFA側との交渉力も劣化している。W杯開幕まで残り1か月という時点での購入交渉は、FIFA代理店にとってタイの足元を見やすい局面で、放送権料の価格交渉力は通常時の比ではない。本来は半年〜1年前に決まる契約が、開幕直前の駆け込み交渉に追い込まれたのは、タイの放送業界と政府の連携不足が原因と指摘されている。
過去の前例は2022年カタール大会だ。当時もタイは直前まで放送権を確保できず、最終的にタイ・スポーツ庁(SAT)がFIFAと推定3,300万ドル(約49億円)の駆け込み契約を成立させた。財源はNBTCと民間パートナー(特に大手通信のTrue Corp)で分担。このパターンを今回も再現する可能性が高く、True Corpを軸とした官民連携が水面下で進行中とみられる。
5月12日の閣議が決定する論点は、(1)放送権の獲得方針、(2)財源の分担スキーム、(3)放送局の選定、の3点。アヌティン首相が「無料視聴の維持」を政治的に約束している以上、有料サブスクリプション型での提供は政治的に受け入れがたい。地上波・True ID等のフリーストリーミング・OTTプラットフォームの組み合わせで、全国民が視聴可能な体制を作る方向で議論される見通しだ。
タイのサッカー熱は東南アジアでも突出している。タイ代表自体はW杯本戦に未だ出場経験がないが、テレビ視聴は文化として根付いており、2022年カタール大会の視聴率は高い水準を記録した。今回の2026大会は米国・カナダ・メキシコ共催で開催地が時差大きく、夜中の試合が多くなるが、それでもタイ国民の視聴需要は強い。「観られないW杯」は政治的にも商業的にも避けねばならない事態となる。
タイ在住の日本人駐在員家族にとっては、放送形態の決定を注視したい。日本のNHK・民放系の海外配信は、契約上タイ国内での受信が制限されている場合があり、(1)タイの地上波・OTTで観る、(2)VPN経由で日本の放送を観る、(3)DAZNなどの国際配信サービスを契約する、などの選択肢がある。タイ閣議の決定次第で「タイの地上波で全試合無料視聴可」か「特定試合のみ」かが分かれる。日本代表戦・決勝・準決勝など主要試合の扱いが、5月12日以降の発表で明らかになる見通し。