アヌティン・チャーンウィラクン首相が5月11日、首相府で開催したプーミジャイタイ党所属閣僚会議で、フリービザ制度全般の大掛かりな整理を指示した。パコーン・ニンプラパン氏を委員長とするビザ審査委員会を設置し、外務省が5月12日の閣議で改革案を提出する段取り。スラサク・パンチャルーンワラクン観光スポーツ大臣は「量より質を重視する」と方針を説明し、フリービザ60日→30日への短縮にとどまらず「全カテゴリーの厳格化」を進める姿勢を明らかにした。背景には、中国人ミンチェン氏のパッタヤ武器庫事件、サムイ・パンガン島の外国人ノミニー1万社、外国人のタイ戸籍違法登録など、観光ビザを悪用した犯罪事件の連続がある。
会議で決定された5項目:
- パコーン・ニンプラパン氏を委員長とする新ビザ審査委員会を設置
- フリービザ全カテゴリの整理(60日→30日短縮を含む)
- 観光客を装った犯罪者の入国制限
- 外務省が5月12日の閣議に正式提案を提出
- アヌティン首相自らが5月13日にパンガン島視察
スラサク観光大臣の説明では、改革の核心は「量から質への転換」だ。「タイの観光は、多くの観光客を呼び込むことではなく、質の高い観光客を持続的に確保する方向に転換する」と説明。具体的には、(A)犯罪歴のある外国人の事前スクリーニング強化、(B)長期滞在型・高消費型の観光客を優遇、(C)短期滞在で犯罪リスクの高い層の流入抑制、を狙う。
パコーン・ニンプラパン氏は法律家として知られる人物で、過去にも複数の政府委員会で議長を務めた経験を持つ。今回のビザ審査委員会の委員長就任は、(1)法的整合性を確保した制度設計、(2)国際慣行との整合性の維持、(3)人権・差別問題への配慮、を担う重要ポジションとなる。
連続事件の文脈は深刻だ。直近では中国人ミンチェン氏のM4武器庫事件で武器流通に民間人3人と軍人2人が関与、パンガン・サムイ2島の外国人関与企業11,426社が経済安全保障の脅威と認定、中国人2人がタイ国民IDカード保持が発覚するなど、外国人犯罪が組織的に進化していた。
ビザ整理の対象範囲は、(i)フリービザ(93カ国対象、60日→30日短縮)、(ii)観光ビザ(事前申請型)、(iii)長期滞在ビザ(LTRビザ)、(iv)退職者ビザ、(v)労働ビザ、すべてに及ぶ可能性がある。スラサク大臣の「全カテゴリ厳格化」発言から、改革は単なる滞在日数の短縮ではなく、犯罪リスクのスクリーニング機能の根本強化を狙う構造となる。
タイ観光業界への影響は二面的だ。短期的には4月の外国人観光客が前年比-7%と低迷する中で、さらなる規制強化は観光収入の追加減少リスクとなる。長期的には、「タイは安全」というブランド回復の核心施策となり、高消費型観光客の長期定着を促す効果が期待される。
タイ在住の日本人駐在員家族にとっては、複数の重要な影響がある。(1)親族の長期訪問でフリービザ60日を前提とした計画は要再検討、(2)30日を超える滞在は労働ビザ・長期滞在ビザ・医療ビザの正式申請が必要、(3)一時帰国・再来タイの間隔が短い場合の入国管理強化、などへの対応が必要となる。最新の外務省・タイ大使館の通達と、5月12日閣議の決定内容を注視し、家族の旅行計画を調整することが推奨される。