プーケット県第2選挙区選出のチャロームポン・サンディー人民党下院議員が5月10日、Facebookで「アヌティン首相はマフィアを恐れてフリーダム海岸視察から逃げた」と公然と批判した。同議員はこの日、首相にプーケットの諸問題を直接訴えるための陳情書を準備して待機していたが、首相が予定をキャンセルしてラノーン県に緊急飛行したため、現地公務員も住民も待ちぼうけを食らったと指摘する。
チャロームポン議員の指摘は具体的だ。フリーダム海岸(カオ・ナークート国立保護林)と隣接するヌイ海岸の利権構造、自然環境破壊、住民の公共資源へのアクセス制限。フリービザでスクリーニングなしで入国する観光客の犯罪化問題。30年以上住民が要求してきたパトン・トンネル建設の度重なる延期。ラワイ区マイマイタイ村の麻薬問題。これら全てを一括して首相に訴える機会を準備していたという。
「PMは『大物(ผู้มีอิทธิพล)』『色付きの人物(คนมีสี、警察・軍関係者の隠喩)』を怖がっているのか?」というのが議員の主張だ。フリーダム海岸の利権を追及していたチャロームポン議員自身は、5月初旬に地元有力者から「議員を殺しても保釈金は20万バーツで済む」とSNS脅迫を受けた経緯があり、今回の首相の「逃避」を「現地マフィアの圧力に屈した」と読み解く文脈には一定の説得力がある。
一方、首相側の説明では、ラノーン緊急飛行は「警察庁上層部の名を騙る圧力電話」を受けて5000万バーツ規模の脱税倉庫摘発を陣頭指揮するためだった。ラノーンの倉庫は今朝の時点で計画されていなかった臨機の対応だったとされる。両者の主張は時系列上で矛盾するわけではないが、「優先順位の付け方」の解釈が分かれている。
タイの政治力学では、人民党は反軍政・反タクシン色を持つ若手中心の野党。チャロームポン議員のような地方選出議員が、首相を直接的に「マフィアに屈した」と批判するのは、与党連立への明確な対立姿勢を示す動きだ。バンコク都知事選で人民党Dr.ジョーが18.9%で2位を獲得しているように、人民党は地方政治でも存在感を強めている。
プーケット住民の視点では、議員の批判は「現地の声を代弁したもの」として支持を集めやすい。フリーダム海岸の利権構造、パトン・トンネルの30年来の遅延、ラワイの麻薬問題は、プーケット県民が長年抱えてきた複合的不満の象徴だ。今回の事案で「中央政府はプーケットの問題を本気で解決する気があるのか?」という疑念が表面化した格好となる。
タイ在住の日本人駐在員にとっては、プーケット観光地での「マフィアの影響力」が政治レベルで公然と議論される異例の状況だ。今後、フリービザ短縮(60日→30日)、外国人取締り強化、パトン・トンネル再開などが連動して進めば、プーケットでの観光・滞在体験は構造的に変化する。一方で、地元利権の解消には数年単位の時間がかかる見通しで、当面は混乱が続く可能性が高い。