タイ・タク県ムアン郡で5月11日、薬局が19歳の店員に店番を任せて、薬剤師の許可なしに「青黄薬(ヤー・キアウルアン/トラマドール)」と「咳止め薬」を未成年に密売していた事件が発覚した。郡役所の役人(パラット)がおとり購入を実施し、無資格店員が薬事法違反の薬を販売する瞬間を証拠として捕らえた。背景には、タイ若者の間で流行する違法薬物カクテル「4×100」があり、(A)咳止め薬(デキストロメトルファン)、(B)トラマドール、(C)クラトムの葉、(D)炭酸水、を混合して摂取する習慣が問題化している。タイ国警察庁消費者保護犯罪取締部(ปคบ.)とFDA(อย.)は過去にも全国127店舗を摘発しており、若者向け薬物密売は構造的問題となっている。
事件の経緯は次の通り。タク県ムアン郡パラット(นายอำเภอ/郡長)の指示の下、郡役所役人が一般客を装って薬局に入店。「青黄薬」と「咳止め薬」を購入したいと伝えたところ、19歳の店員が薬剤師の処方箋確認なしで購入を許可した。この瞬間を証拠として、店舗および店員を薬事法違反容疑で立件することになる。
問題は4点ある。(1)薬局には資格を持つ薬剤師(เภสัชกร)が常駐し店番をする義務があるが、19歳の無資格店員が単独で店を任されていた、(2)「青黄薬」(タイで医療用麻薬第3類規制対象、トラマドール)は処方箋必須だが、無処方で販売、(3)販売対象が未成年・若者で、明らかに薬物乱用目的、(4)販売価格が一般市場価格より高く、不当利得目的の販売。
「4×100」というタイ若者の薬物カクテルは、近年深刻な社会問題となっている。組み合わせは、(A)咳止め薬(デキストロメトルファン含有、解離性麻酔作用)、(B)青黄薬/トラマドール(オピオイド系鎮痛剤、依存性高い)、(C)クラトム(タイ原産の葉、覚醒系作用)、(D)炭酸水・コーラ(嗜好性向上)、の4成分を混合。摂取者は意識朦朧・酩酊状態に陥り、自動車事故・暴力沙汰・性的暴行などの二次被害も報告されている。
過去のタイ警察+FDA摘発実績は深刻だ。2022年に消費者保護犯罪取締部(ปคบ.)とタイ食品医薬品庁(อย.)が全国の薬局127店舗を摘発し、薬剤師資格のない販売員13人を逮捕。中でも14店舗は「若者向けの4×100用薬物販売」に特化していたという。今回のタク県ケースは、その構造的問題が4年経過後も継続していることを示す典型例となる。
タク県は首都バンコクから北西約430km、ミャンマー国境に近い県庁所在地で、人口約60万人。観光地としても知られるが、若年層の薬物乱用問題が地方部でも深刻化している実態を示すケースだ。地方薬局の監督体制の不備、(A)薬剤師の常駐義務違反、(B)夜間・深夜営業時の無資格販売員配置、(C)地方部の薬事法執行の不徹底、などが組み合わさって発生する。
タイの薬事法(พ.ร.บ.ยา)違反への処罰は、(i)薬剤師なしでの店舗運営:罰金1万バーツ+業務停止、(ii)処方箋なしの規制薬物販売:罰金2万バーツ+懲役5年以下、(iii)店舗営業許可剥奪、と段階的に重い。タク県の今回の薬局も、店舗側・店員19歳の双方が立件される見込みだ。
タイ在住の日本人駐在員家族にとっては、特に思春期の子供を持つ家庭で重要な注意点となる。(1)タイの薬局では、市販薬と処方薬の区別が日本ほど厳格でない場合がある、(2)日本人学校や国際学校の生徒に「4×100」の存在が浸透している可能性がある、(3)子供が一人で薬局に行く際の薬剤師確認の重要性、などを意識すべき。咳止め薬・鎮痛剤の入手経路と用量を家庭内で管理することが、子供の薬物乱用予防の第一歩となる。