トラート県ボーラーイ郡で5日、発情期(マスト)の野生象が63歳のモン族の農場労働者を踏み殺す事故が発生した。現場はクロンケーオ滝国立公園の森林に隣接する農地である。
目撃した息子のサイチョンさん(33歳)によると、森から異常に興奮した状態の野生象が現れ、父親に「近づくな」と警告した。しかし父親は象を追い払おうと接近し、踏み殺された。現場には発情期特有の強い臭いが残っていたと当局は報告している。
この象は「ジャオデーブ」と呼ばれる雄の野生象とみられ、過去にも人を死亡させた記録がある個体だという。マストと呼ばれる発情期の雄象はテストステロンが通常の60倍に達し、極めて攻撃的になる。体重5トンを超える巨体が暴走すれば、人間にはなす術がない。
タイでは野生象と人間の生活圏が重なる地域が多く、こうした事故は珍しくない。先日はカオヤイでミシュラン受賞レストランに野生象が3度も侵入する事件もあった。観光客には微笑ましいエピソードに映るかもしれないが、地元住民にとっては命に関わる隣人である。
当局は住民に対し、野生象を発見した場合は自ら対処せず、通報するよう改めて呼びかけている。息子の制止を振り切って象に向かった父親の悲劇は、野生動物との距離感の難しさを突きつけている。

