アヌティン首相は2026年3月29日、東北部ナコンパノム県ターペーノム郡のガソリンスタンドを抜き打ちで視察した。レンタカーを自ら運転し、事前通告なしで複数のスタンドを訪問。現場では給油作業を手伝う場面もあった。燃料危機が深刻化するなか、政府トップが現場に立つという異例の行動だ。
視察の詳細
ナコンパノム県には燃料スタンドが333か所あり、うち大型スタンドは72か所。ターペーノム郡には大型10か所が営業している。首相はスタンド経営者や県の担当者と意見交換し、燃料の供給状況やサービスの質を直接確認した。
首相は視察後、「状況は改善に向かっているが、国民全員で省エネに取り組む必要がある」と述べ、燃料消費の節約を呼びかけた。ソンクラーン(4月13〜15日)を控え、帰省シーズンの燃料需要増に備えた供給体制の点検も兼ねている。
燃料危機の背景
タイでは2026年3月中旬から中東情勢の悪化に伴う原油急騰で石油基金が枯渇し、PTTが一斉値上げを実施した。ガソホール95は35バーツ台から41バーツ台、ディーゼルB7は30バーツ台から47バーツ台まで上昇した地域もあった。
東北部では燃料の買い占めや横流しが発生し、スタンドの在庫が底をつく事態が相次いだ。農業用ポンプが動かせない農家、出港できない漁船、運行停止を余儀なくされたトラック業者が続出した。政府は燃料会社への供給命令、密輸摘発の強化、石油基金の緊急補充を打ち出したが、地方の現場への浸透には時間がかかっていた。
東北部の状況
今回の視察先となったナコンパノム県は、メコン川を挟んでラオスと接する国境県だ。東北部のなかでは比較的小規模な商業都市で、農業と国境貿易が経済の柱となっている。首都圏から遠く離れた地方都市では、スタンドの在庫切れや長時間の行列は発生していないとの報告もあり、首都圏に比べて状況は比較的落ち着いているとみられる。
一方で、燃料の買い占めや横流しはイサーン全域で問題化しており、首相が抜き打ち検査で監視の姿勢を示す必要があった。燃料スタンドが適正価格で販売しているか、在庫を隠匿していないかを政府自ら確認する狙いがある。
政府の対応策
アヌティン首相はこれまでも燃料危機対応の陣頭指揮を執ってきた。内閣は緊急会議を繰り返し開催し、石油基金の増額、B20ディーゼルの普及促進、輸入石油の特例措置などを矢継ぎ早に打ち出している。しかし根本的な解決は中東情勢の安定化にかかっており、短期的な対策に限界があることも認めている。
首相自身が地方のスタンドを一軒一軒回るという対応は、国民への「政府は真剣に取り組んでいる」というメッセージでもある。タイ政治では政治家が現場に出向く「パフォーマンス」が重要視される文化があり、その側面も否定できない。