タイ北部プレー県スーンメン郡に、道路の中央分離帯でもない場所に堂々と立つ巨大な菩提樹がある。高さ約20メートル、幹は数人がかりで抱えるほどの太さ。交通標識と黄色い布が巻かれたこの木は、地元住民にとって神聖な存在であり、数十年間ただの一度も車がぶつかったことがないという。
菩提樹が立つのは、バーンラオ地区のムー5とムー8を結ぶ道路上だ。地元行政のタークーン・タナーヌサック首長によると、推定樹齢は100年以上。もともとワット・ピチャイシリ寺の横に生えていたが、その後灌漑局が用水路を掘削した際に木が用水路の上に位置する形となった。さらに農村道路局が用水路の堤を舗装して道路に整備したことで、結果として菩提樹が道路の真ん中に取り残された格好だ。
この道路はバーンラオ地区の住民がプレー市内へ向かう際の主要ルートで、日常的に車やバイクが行き交う。それにもかかわらず、長年にわたって衝突事故が一件も起きていないことが地元では「不思議」として語り継がれている。タイでは菩提樹は仏教において神聖な木とされ、幹に黄色い布を巻くのは精霊が宿る木を示す慣習だ。住民たちは「祟りが怖い」として誰も伐採しようとしない。
宝くじの抽選日が近づくと、当選番号のヒントを求めて参拝者が集まるのもタイらしい光景だ。木には2羽の九官鳥が住み着いており、訪れる人々を出迎えるという。交通の安全と宝くじの御利益を同時に求められる珍スポットとして、SNSでも話題を呼んでいる。
日本では道路上の障害物は即座に撤去されるのが常識だが、タイでは信仰と行政が共存する独特の風景が生まれることがある。プレー県のこの菩提樹は、タイの仏教文化と精霊信仰が交通インフラよりも優先される一例といえるだろう。