タイ財務省は2026年、ブロックチェーン技術を活用した「政府トークン」の発行を検討していると複数のメディアが報じた。規模は1億5,000万ドル(約50億バーツ)とされ、国債のデジタル化を通じて資金調達コストを下げることが主な目的だ。国が直接デジタル資産を発行するという試みは東南アジアでも先例が少なく、実現すれば注目を集める取り組みになる。
政府トークンとは、国が発行するデジタル証券の一種で、従来の国債と同様に政府への資金提供の見返りとして利子を受け取れる仕組みだ。ただし発行・流通・決済がブロックチェーン上で完結するため、仲介機関を必要とせず手数料が低くなる。スマートコントラクトを使えば利払いや元本返済も自動化できる。投資家にとっては、少額から参加できる可能性があり、従来の国債よりも流動性が高くなるとも期待される。スマートフォンを持つ個人投資家が手軽に参加できる金融商品として普及する可能性も秘めている。
タイは2021年から小口国債の電子発行を進めており、今回の政府トークン構想はその延長線上にある。タイ証券取引委員会(SEC)はデジタル資産関連法を2018年に整備しており、規制面のインフラは比較的整っている。財務省はデジタル資産管理サービス会社を通じた発行スキームを検討しているとされる。タイのデジタル資産市場はアジアの中でも法整備が進んだ市場の一つとして認知されており、2021〜2022年の仮想通貨ブームでも個人投資家の参加が急増した実績がある。
世界的にみると、政府レベルでのトークン債発行はまだ数少ない事例しかない。欧州ではドイツやフランスの一部機関がブロックチェーン債を発行した実績がある程度だ。タイが国家レベルで実施すれば東南アジア初となる可能性がある。シンガポールやマレーシアでも類似の動きがあるが、規模や方式は異なる。日本でも2025年に国債のデジタル化実証実験が進んでおり、タイの取り組みが参考事例になるとの見方もある。
一方で課題もある。デジタル資産市場のボラティリティと政府の信用リスクを混同させないための制度設計が必要だ。また、国内外の機関投資家や一般投資家がどれだけ参加するかは不透明で、流動性の確保が鍵になる。財務省はパイロット規模の発行で市場の反応を試す意向とみられる。
タイの国家債務残高はGDP比約60%水準で推移しており、財政的にはまだ余裕がある。ただし2026年は中東情勢に起因する燃料高騰対策や輸入コスト増で財政出動が膨らんでいる。資金調達の多様化という観点からも、政府トークンへの関心が高まっている。タイ国内の個人投資家には少額から政府プロジェクトに参加できる手段として普及する可能性もあり、金融包摂の観点からの期待もある。発行が実現した場合、タイのデジタル経済政策の象徴的な施策として国際的に注目を集めるとみられる。
在タイ日本人や日本からの訪問者にとっても、今回のような出来事はタイの社会・文化の一側面を理解するうえで参考になる。タイと日本の間には歴史的・経済的な深い結びつきがあり、在タイ日系企業のビジネス活動や日本人観光客への影響も無視できない。今後も継続的な情報収集と現地状況の把握が重要だ。
タイは人口約7,000万人を擁する大国で、バンコクを中心に経済・文化・政治が集中している。2026年現在、首相アヌティン・チャーンウィーラクーン率いる連立政権は、中東情勢の影響で高まるエネルギーコストと生活費上昇への対応を最優先課題としている。在タイ日本人・日本企業にとっても、タイの政策動向や社会情勢を把握し、適切に対応することが求められる局面だ。