タイの若年層を取り巻くメンタルヘルス危機が、政治の場で改めて表面化した。民主党のカーンディー・レオパイロート副党首は2026年5月6日、国会下院で「タイの18〜24歳の26.9%がうつ病を経験している」「自害を真剣に検討した生徒は17.6%」という統計を提示し、構造的な危機への政府対応を要求した。同議員は議員としてだけでなく一人の母としての立場からも問題を提起した。
国会で示された統計: 26.9%のうつ病罹患率と17.6%の自害検討
カーンディー氏が国会下院で公表した数値は、タイ若年層のメンタルヘルス問題の深さを端的に示すものだった。18〜24歳の26.9%がうつ病を経験しているという数値は、4人に1人が日常的なメンタル不調を抱えている計算となる。自害行動を真剣に検討したことのある生徒が17.6%という数値は、6人に1人が自分の身体を傷つけることを考えた経験を持つ規模感。
この数値はタイ国内の独立調査だけでなく、世界の若年層メンタルヘルス指標と比較しても高い水準にある。日本やシンガポールなどアジアの近隣国の同年齢層のうつ病罹患率は10〜15%程度とされ、タイの数値は突出して高い水準にある。
「個人の問題ではなく構造的危機」という主張の背景
カーンディー氏は、自身が高校時代の元同級生2名を短期間のうちに自殺で失った経験も明かした。個人的な経験を踏まえた上で、若年層の自殺・うつ病問題は「個々人の心の弱さの問題ではなく、社会構造に起因する危機である」と主張した。
ストレス要因として挙げたのは三つ。教育プレッシャー(過酷な進学競争、習い事漬けの幼少期)、ソーシャルメディアの常時オン状態(同年代との比較心理、いじめ・嫌がらせの常態化)、家庭の経済的困窮(コロナ後の家計逼迫、シングルペアレント世帯の増加)。これら3要素が複合することで、若年層が逃げ場を失う状況が生まれていると分析した。
政府への具体的要求: 心理士増員と偏見削減
カーンディー氏が政府に要求したのは具体的な制度・予算の動きだ。保健大臣、教育大臣、高等教育・科学・研究・革新大臣の3大臣に対し、署名済みのMOU(覚書)以上の実行力を持つ支援体制を求めた。
具体策として、各学校のガイダンス教員・心理カウンセラーの増員、メンタルヘルス予算の拡充、Hope Task Force(タイの若年メンタルヘルス支援ネットワーク)の全国規模での拡大を要求。さらに、メンタルヘルス受診への社会的偏見の削減も重要な柱として強調した。タイでは未だに「精神科を受診する=社会的に弱い」という見方が根強く、若年層が初期症状の段階で支援を受けにくい構造がある。
在タイ日本人保護者と教育機関への影響
在タイ日本人にとって、この問題は二つの側面で関係する。第一にタイのインターナショナルスクール、タイ系名門校に通う子どもがいる駐在員家庭にとって、教室内のメンタルヘルス危機は決して他人事ではない。クラスメイト・同学年に深刻な状況の生徒がいる前提で、子ども自身のサポート体制を考える必要がある。
第二に、現地法人に勤務するタイ人の若手社員のマネジメントの観点。20代前半のタイ人スタッフがメンタル不調を抱えている可能性は、統計的に見て低くない。日系企業のEAP(従業員支援プログラム)の整備、相談窓口の言語対応、休職時の柔軟な対応が、人材定着率や生産性に直結する課題として浮上している。