タイ警察中央捜査本部(CIB)が2026年5月21日、全国16県の計23地点を同時に強制捜査し、容疑者22人を逮捕した。容疑は中国人の不法入出国斡旋ネットワーク。コールセンター詐欺グループや「ダミー口座」(บัญชีม้า、馬口座)とのつながりも判明し、押収資産は2000万バーツ(約9200万円)を超えた。CIB長官ナタサック・チャオアナサイ中将が指揮し、捜査隊・ハイウェイ警察・特別行動隊の3部隊で同時突入する大規模オペレーションとなった。バンコクをはじめチャンタブリ・ラヨーン・チェンライ・チェンマイ・コーンケンなどタイ全土の主要県が捜査対象になった。
強制捜査の対象地と規模
捜査対象は2026年5月21日早朝に同時実行された23地点で、地域別の内訳は以下のとおり。
捜査対象県(発表ベース):
- バンコク(都)
- チャンタブリ
- ラヨーン
- ナコンパトム
- スパンブリ
- カンチャナブリ
- チェンライ
- チェンマイ
- ガムペンペット
- タック
- チャイナート
- コーンケン
- チャイヤプム
- シーサケート
- トラン
- (関連エリア追加)
東部のチャンタブリ・ラヨーン、西部のカンチャナブリ・タック、北部のチェンライ・チェンマイ、東北部のコーンケン・チャイヤプム・シーサケート、南部のトランと、地理的に分散した同時突入で、ネットワーク全体を一網打尽にする狙い。地方都市まで踏み込んでいる点が、組織犯罪の物流網が首都圏だけに収まらない実態を裏付けている。
容疑の中身: 中国人不法入出国斡旋+コール詐欺+ダミー口座
逮捕された22人の容疑は、以下の3要素が絡む組織犯罪。
組織犯罪の構造:
- 第1の要素: 中国人を不法にタイへ入国・タイから出国させる斡旋(人の運搬)
- 第2の要素: コールセンター詐欺グループに人員・拠点・回線を供給(犯罪インフラ提供)
- 第3の要素: 詐欺被害金の受け皿となるダミー口座(馬口座、บัญชีม้า)の運用と現金化(資金洗浄)
CIBの初期捜査で、組織内では役割が体系的に分担されていたことが判明している。具体的には、外国人(主に中国人)の送迎担当、複数台の車両を使った運搬担当、宿泊先・隠れ家の手配担当、ダミー口座の作成・運用担当、コールセンター詐欺の現場運営担当などに分かれた、複層構造の犯罪組織だった。
押収資産2000万バーツ超
23地点の同時突入で押収された資産は2000万バーツ超(約9200万円、1B=4.6円換算)。
押収品の中身は現金・銀行カード・パスポート・車両・通信機器・電子記録媒体など。コールセンター詐欺の被害金がダミー口座を経由して洗浄される過程で、現金化された一部が組織内に滞留していたとみられる。タイの「ダミー口座」問題は2023-2025年にかけて急増し、警察庁レベルでの大規模対策(口座開設時の本人確認強化、未稼働口座の自動凍結等)が進められている。
ダミー口座(บัญชีม้า)とは何か
タイで「บัญชีม้า」(バンチー・マー、直訳「馬口座」)と呼ばれるのは、他人名義の銀行口座のこと。
実態は以下のとおり。
- 名義人: 本来の口座開設者(借りた本人)
- 実際の利用者: 詐欺グループや犯罪組織
- 利用目的: 被害金の受け取り・送金中継・現金化
- 開設の経緯: 借金返済のため口座を「貸す」、低所得層が手数料1万-3万バーツで身分証明書と口座を引き渡し、未成年や留学生・出稼ぎ労働者が標的になりやすい
タイ国家警察は2023年から「บัญชีม้า対策」を重点課題に位置づけ、銀行に対する開設審査の強化、休眠口座の自動凍結、犯罪利用が確認された口座の銀行間共有を進めている。2026年に入り、ダミー口座関連の摘発件数は前年同期比で大幅増加している。
CIBの指揮系統と3部隊同時突入
オペレーションの指揮系統は、CIB長官の下に3部隊の少将級司令官が並列に動く形態。
指揮系統(発表ベース):
- CIB長官: ナタサック・チャオアナサイ中将
- 捜査隊(ป)司令: パッタナサック・ブッパスワン少将
- ハイウェイ警察(ทล)司令: ポーンサック・ラオルチラライ少将
- 特別行動隊(ปพ)司令: ティーラチャート・ティーラチャートタムロン少将
捜査隊が容疑者の身柄確保、ハイウェイ警察が逃走経路の封鎖と車両捜査、特別行動隊が武装した可能性のある拠点への突入を担当する分担だったとみられる。全23地点での同時刻突入は、組織内の連絡が遮断されている状態でないと成立しない大規模オペレーションで、事前の盗聴・尾行・口座監視などの内偵が長期間にわたって行われていたことを示唆している。
中国人不法入出国の背景
タイは2024年以降、中国人観光客の急増と並行して、中国人による不法入出国・不法滞在・違法就労の問題も大きくなっている。
主な背景要因:
- 中国本土の経済停滞と若年層の海外脱出志向
- タイ・ミャンマー・カンボジア国境地帯のコールセンター詐欺拠点への人員供給
- ノービザ60日制度(2024年導入)の悪用例
- 中国系犯罪組織(三合会系・新興オンライン詐欺グループ)のタイ拠点化
タイ政府は2026年に入り、ノービザ60日を30日に短縮する案を検討中とされ、観光ビザの悪用阻止が政策課題に位置づけられている。今回の23地点摘発も、この政策議論の現場側の動きと連動している可能性がある。
続報
逮捕された22人の身元、コールセンター詐欺の被害規模、ダミー口座の名義人数、押収現金の最終確定額、起訴の判断などは今後の続報で明らかになる見通し。



