ミャンマー軍政を支える立法府が2026年5月14日、「オンライン詐欺対策法案」を公開した。暴力・拷問・違法監禁・残虐行為を使って他者にオンライン犯罪への参加を強制した者には死刑、詐欺センターの運営者や暗号通貨詐欺の関与者には終身刑を科すという厳しい内容だ。ミャンマーはASEAN最大規模のサイバー犯罪拠点とされ、タイ国境のミャワディーをはじめ各地に詐欺センターが集中している。タイ政府も犯人引き渡しや国境取締りで密接に関係する案件で、在タイ日本人にとっても無関係とは言えない国際圧力の表れだ。
法案の骨子は「強制者は死刑、運営者は終身刑」
法案の枠組みは2層構造になっている。最重い「死刑」が科されるのは、暴力・拷問・違法監禁・残虐行為などを手段にして、他人をオンライン犯罪に強制参加させた者。これは詐欺センター内で人身売買被害者を働かせている首謀者や監視役を念頭に置いた条文と読める。一方、運営側(詐欺センターを実際に運営する者)と、暗号通貨詐欺に関与した者には終身刑が科される。罪の重さで2段階に分けたことが、これまでのミャンマー法では珍しい構成だ。
米FBI調査で米国だけ年200億ドル超の被害
国際圧力の背景には、ミャンマー発のサイバー詐欺の被害規模がある。米FBIの調査では、米国内だけで年間200億ドル(約3兆円)を超える被害が出ているとされる。中国・東南アジア各国の被害を加えると、規模はさらに大きい。ミャンマーは2021年の軍部クーデター以降、国境地域や少数民族武装勢力支配地域に詐欺ネットワークが拠点を構え、ASEAN最大の犯罪インフラに成長してしまった。中国は越境犯罪の被害に対して強い圧力をかけており、ミャンマーと中国の二国間関係も緊張している。
タイ国境ミャワディーが主要拠点
タイから見ても、この法案は他人事ではない。ミャンマー側のミャワディー、シュエコッコ、ターチレックなどの国境エリアは、これまで何度もタイ警察・CCIB(タイ国家警察サイバー犯罪部局)の取締り対象になってきた。詐欺被害者にはタイ人も多く、タイで「就職詐欺」に遭いミャンマー側の詐欺センターに連れ込まれて強制労働させられるケースが繰り返し報告されている。タイCCIBとミャンマー軍政の協力体制は脆弱で、これまで容疑者を引き渡せずに終わった事案も多い。今回の法案がミャンマー国内で適用されれば、国境を越えた詐欺対策が前進する可能性はある。
関連背景
在タイ日本人で詐欺被害に遭うケースの多くは、フィッシング・SNS投資詐欺・偽通販などが入り口だが、その先のオペレーションがミャンマー詐欺センターに繋がっていることは珍しくない。今回の法案でミャンマー国内の取締りが厳しくなれば、詐欺グループの拠点が他国(カンボジア・ラオス・フィリピン)へ移動する可能性も指摘されている。タイ警察の取締り強化と並行して、グループの逃亡先がどう変化するかは、今後の越境詐欺対策のカギだ。法案の施行予定日は公表されていない。